メッセージ 勝見 勉

勝見 勉

独立行政法人情報処理推進機構
主任研究員

震災から1年半以上が経過した今も、被災地では復興への取り組みが続き、また仮設住宅や避難先での生活が続いている方が多くおられます。支援らしい支援ができずにいる自分を恥じつつ、復興再生に向けての活動がより効率的、より集中的、よりスピーディなものにならないものかと思案しております。皆様に改めてお見舞い申し上げます。

 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、IT(情報技術)とIT人材の育成とITのセキュリティを推進する立場から、震災対応においてITやITに携わる人たちのコミュニティが果たした役割について、フォローを進めてきました。例を挙げれば、被災自治体の情報システム再構築へのコンサルティング・情報提供、自治体情報基盤における震災等の影響の調査、震災後復旧・復興活動を行ったITコミュニティ活動の調査、被災したIT関係者及びITによる復旧・復興の支援者の活動の記録、「災害に対応するITシステム検討プロジェクトチーム」の設置などがあります。

 ITは、行政関係者、警察・消防・自衛隊の方たち、医療関係者、ボランティアの方々の、直接の救援活動や被災者への支援活動に比べれば、その果たしている役割は目立たず、微力に見えます。しかし現実には、これらの活動の多くをITが支えています。ITによって情報を関係者に有効に行き渡らせ、共有することができなければ、これらの直接の支援活動も、より多くの困難に直面し、もっとずっと効率の悪いものになり、結果的に救援・支援活動の及ぶ範囲、実現できた内容はより小さなものになっていたと考えられます。

 このメッセージのコーナーにも、ITを通じての支援の実例が多く語られています。そのような例の多くが、クラウド環境からの支援でした。IPAでは、震災に際して無償提供されたクラウドサービスがどのようなニーズに生かされたかの実例を収集し、2011年6月20日に76件のリストを公開しました。それは、(1)被災者や救援活動にあたる人たちの間での情報流通・共有の基盤、(2)被災者に対する救援活動のための情報インフラ、(3)行政情報提供サイトの機能的拡張、(4)被災企業等の緊急情報発信や業務処理のためのIT基盤、の4つのカテゴリに整理分類することができました。緊急対応のために必要な多くの機能、活動が、ITに、そしてクラウドに支えられて行われたわけです。

 このたびIPAでは、「クラウドコンピューティングの社会インフラとしての特性と緊急時における課題」と題する調査を行い、その結果を公表しました。この中で明らかになった視点の一つは、クラウドという新しいパラダイムは、緊急時には、平時には存在しない様々なニーズに、極めて迅速に、多様に、かつ柔軟に対応できるということ、その結果、緊急対応に必要な様々なIT機能を提供することが可能な、新しい社会インフラになった、ということです。東日本大震災の経験は、このことを数多くの実例で教えてくれました。新しいサービスの提供のためのコストがわずかで済むことや、必要に応じてスケールアウト・スケールイン可能なこと、時間と場所を越えてボランタリなコラボレーションを行うためのプラットフォームになりうること、も大きな魅力です。 またクラウドサービスを活用することで、復旧・復興のために必要となるITへのニーズも、スピーディに、効率的に、かつ経済的に満たすことができます。

 被災地の方々や企業が、以前のような活発な活動や充実した暮らしを取り戻す、あるいは新しい活動や暮らしを築きあげる、その神経中枢として、ITはなくてはならないものといっても過言ではないでしょう。世の中の色々な力が結集して、一日も早く復興が成し遂げられることを祈りたいと思います。そのためのITの役割、ITに必要な機能や特性の開発・提供などを通じて、IPAが少しでもお役に立てればと考えています。

略歴

1975年
京都大学経済学部卒業、日新電機株式会社入社
1995年
以降国内企業及び外資系企業においてネットワーク及び情報セキュリティ関連事業に従事。
日本の企業・組織における情報セキュリティ対策の向上・推進に取組み。
2001年
NPO日本ネットワークセキュリティ協会設立に参画。
2005年
IPA非常勤研究員 
2008年
株式会社情報経済研究所設立、代表取締役就任(現任)
2011年
IPA主任研究員(現任)
その他の役職
NPO日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)幹事
クラウドセキュリティアライアンス日本支部幹事
経済産業省クラウドセキュリティ検討会委員(2009)

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