メッセージ 宗像 義恵

宗像 義恵

インテル株式会社
取締役 副社長

未曾有の大災害から復興へ

日本は昨年3月、未曽有の大災害に見舞われました。多くの命が失われ、都市機能も麻痺する中、世界中が、そんな中で他人を気遣い、秩序を守る日本の姿に注目しました。日本の強さはこうした「やさしさ」、「思いやり」ではないでしょうか。技術やサービスの開発に、これらのポイントを活かすことで、日本企業の強みを発揮できると考えます。
我々は技術に対する冷たいイメージから暖か味のあるものへと換えて行くべきだと思います。生産性、効率性だけでは仕事はできません。人の役に立つことで喜びや感動が生まれ、新しいことを創造できるのです。日本には、素材やシステム、コンピューター、ネットワークなど、優れたテクノロジーを持っている企業がたくさんあります。また、“思いやり”“すり合わせ”“作りこみ”など日本型ソリューションならではの強みもあります。

さらに、日本の強みはそれだけではありません。日本は、誰もが羨むインターネット・インフラ先進国でもあります。WiMAXの導入もいち早く進めています。しかしそういったインターネット・インフラが、企業の競争力、国民への福祉サービス向上にまだ充分役立っているとはいえないように思います。革新的なテクノロジーが1つ登場しても、周りの環境が揃ってなかったり、利用形態が今ひとつだったり、市場にその新しい技術を受け入れる準備ができていない場合、市場に新製品を投入してもなかなか立ち上がることはありません。ICTの基盤であるインターネット・インフラを生かしきる戦略が急務です。たとえば、昨年のような大きな災害が起きた場合、ICTの機能が有効であれば、正確な状況の把握、正確な情報の伝達が可能になり、余計な混乱を防ぎ、被害を最小限に食い止めることが可能でしょう。優れたインターネット・インフラと新しい技術を復興と災害対策に生かせる施策が必要です。 

[社会的課題の解決にITを活用すべき]

自然災害だけでなく、少子高齢化、国際競争力、高額医療費、教育・人材開発、エネルギー問題や対策などなど、日本は社会的課題の先進国といえます。この日本が、ICTを活用し、これらの社会的課題を解決できれば、世界は日本に再び注目し、日本で生まれたソリューションを使いたいと需要が生まれ、日本の経済成長にもつながっていくと考えます。

インテルは日本でのICTの発展に貢献すべく、本年、茨城県つくば市にあるインテルの事業所にインテル® ヒューマン・インタラクティブ・テクノロジー・アプリケーション・センターを新設いたしました。さまざまな企業と協力することにより、ユーザー体験にイノベーションを起す場所を目指しています。日本には、より優れたユーザー体験の創造に対し多くの課題と機会があります。本施設を通しユーザービリティーを検証し、インテルの最新テクノロジーと ICT の利活用を通じて、誰にでも簡単に使える優れたユーザー体験の創造と、革新的なICTソリューションとビジネスモデルの誕生を支援したいと考えています。

[震災後のボランティア]

日本の優れたインターネット・インフラを基盤とするICT活用の戦略や施策の必要性を私が強く感じるのは、私自身の体験からです。私は、昨年の震災直後、報道機関より伝えられる惨状を前に、何か出来ないかという思いを一心に、パソコンと無線LANアダプターを片手に被災地に赴きました。そこで目の当たりにしたのは、通信網が遮断され、身内や友人の安否情報、震災の状況、国・行政機関の支援情報等、重要な情報の収集に困難を極めている状況で、少しでも多くの避難所に、迅速に情報インフラを作ろうと、弊社社員やビジネスパートナー様よりボランティアを集い、微力ながら毎週のように機器の配送、設置を行わせて頂きました。その後、政府機関及び業界関係各社への働きかけを行い、業界を挙げた支援体制を作りました。

この活動を通じて強く感じた事は、ライフラインとしてのICT活用の重要性で、特に災害等における未曾有の事態への備えは、直ぐにでも取り掛かる必要があります。現在、政府主導のIT戦略本部(本部長・野田首相)の下、IT防災ライフライン推進協議会でICTの有効活用の検討が進められていますが、当社も協議会会員として責務を果たしたいと思います。

[日本を牽引する人材育成を]

この震災を乗り越え、さらに日本が活力を取り戻すために、日本企業は、リーダーシップを発揮し、日本経済を牽引できる次世代の人材育成を支援するため、日本の教育支援策を打ち出す必要があると思います。21世紀、人は仕事を何回もかわるでしょう。今
日の若者は、18歳から40歳までにおよそ11の仕事を経験するだろうとも言われています。必要とされるスキルもどんどん変ってきます。また、日本は急速な高齢化の流れの中で、社会経済をどのように持続、発展させていくかという、難しい課題を抱えていま
す。こうした中で、改めて教育立国としてという原点に立ち返って、志を高くし、そして産官学が連携、協力しながら、次世代の人材づくりをする必要があるのではないでしょうか。時間がかかることですが、それは、我が国が絶対にやらなければいけないことであると考えています。

インテルも、人材育成や教育に企業として何ができるか、日々真剣に考えております。今の若い人たちは、将来のインセンティブにつながる、役に立つと分かれば、ちゃんと実践する行動力とモチベーションを持っていると私は感じています。例えば、留学から得られる意義や価値が高いことを社会がもっと認識・共有し、それを支援するプログラムや制度が充実すれば、きっと多くの人が海外へと旅立し、グローバルな人材が増えることでしょう。インテルでは海外で生活した人や、留学経験のある人を積極的に採用していますし、各国のインテル間での人材交流も活発です。 

先ほど触れたように、世界が変化する速度はどんどん速くなっています。今よりももっと、変化に対応できる能力を持った人たちが必要です。そして、そういったスキルは、育成するものではなく、開発するものだと考えています。スキルを持っていないのなら、
開発していけば良いのです。正解のない世界のなかで、どうやって自分のやりたいことをみつけるのか、そのためにいろいろ試行錯誤して、新しいことに挑戦することが大事だと思います。

最後になりますが、インテル・コーポレーションの日本法人であるインテル株式会社は、数年前から、「日本発」にこだわり、実践しようとしています。震災後もその志は変っていません。

今後もこの志を持って、活力ある日本のために、貢献したいと心から考えています。

略歴

1981年
東京都立大学工学部卒業
1983年
インテルジャパン株式会社 に入社。管理本部情報システム部に配属
1992年
マーケティング本部に異動。マーケティング・マネージャーとして製品
マーケティング、マーケティング・プログラムを担当。ソフトウェア技
術部長、プラットフォーム技術マーケティング部長、組込型半導体製品
マーケティング部長、戦略マーケティング部長を歴任
1999年
コミュニケーション製品事業本部長に就任
2001年
社長室長 経営企画担当に就任
2004年 2月
事業開発本部長に就任
2009年 4月
取締役 副社長に就任

注 1997年 2月 インテルジャパン株式会社の社名を、インテル株式会社に改称